日本発のメタバース『meet-me』

Game Watchトランスコスモスフロム・ソフトウェア産経新聞社、3Dバーチャルコミュニティ事業を扱う合弁会社設立。事業内容にはオンラインゲームの開発・配信も
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070605/cocore.htm

Internet Watchトランスコスモス産経新聞ら3社、メタバース事業の新会社を設立
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/06/05/15944.html

ITmedia News:東京をリアルに再現する“和製Second Life
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/05/news078.html

RBB TODAY:バーチャル東京を再現! 新3Dコミュニティーmeet-me”が年内開始
http://www.rbbtoday.com/news/20070605/42430.html


アーマードコア4』以降、沈黙を続けているなぁ……と思っていたら、こんなことやっていたんですね、フロムソフトウェア


フロムソフトウェアは初代プレイステーションの発売とともにゲーム業界に参入した、割と新しめの(それでももう10年以上経ちますが)ゲーム開発企業。ちなみに、それ以前はメインフレーム向けのシステム開発を行っていた企業なのだそうです。


記念すべき第一作目『キングスフィールド』はプレイステーションのロンチタイトルとして制作されていましたが、実際の発売は約2週間遅れとなりました。『ウィザードリィ』の影響を思いっきり受けたと開発陣がインタビューでコメントしていましたが、全5層のダンジョンに潜っていく、リアルタイム3DアクションのRPG。当時から既にポリゴンをめいっぱい駆使した3Dゲームに特化しており、技術力の高さが評判を呼んでいました。


フロムソフトウェアが不動の地位を築いたのは、一作目から約半年の期間を経て発売された、第二作目『キングスフィールドII』においてでした。孤島ひとつをまるごとダンジョンにした箱庭的完成感と、前作から大幅にクォリティのあがった映像表現、高低差なども巧みに取り入れた3Dならではのゲーム性など、目を見張るほどの「大化け」ぶりで、ファンを一気に増やしました。私自身も何周もプレイするほどハマっており、この作品に出会ったことでプレイステーション1台分の元は取ったな、と唸らされた、思い出深いゲームです。


その後も快進撃は続きます。『アーマードコア』では自分で自機を組み立てて戦うロボットものアクションとして一世を風靡。また『エコーナイト』では一転、ホラーもののアドベンチャーというジャンルに挑戦しつつも、得意分野の3D表現を用いて面白い作品に仕上げます。一方で、『キングスフィールド』とは異なる3DアクションRPGを模索する『シャドウタワー』などの意欲作も発表しており、勢いを感じさせました。


どの作品にも共通しているのは、プレイステーションならではのポリゴン技術に特化し、リアルタイム3Dのヴァーチャルワールドを作り上げる、ということ。このため、サイバーパンク小説にかぶれ、未来のヴァーチャルワールドの誕生を夢見ていた私には、フロムソフトウェアは最もその「生みの親」となるのに近いところにいるのではないか、と感じられ、それゆえに先行投資のつもりでプレイステーション時代の全ての作品を新発売時に購入するほど入れ込んでいました。


#まぁ、どれも遊び倒したし面白かったので「損した」作品はないのですが。


プレイステーションは結果的にゲーム市場の勝利者となり、時代はポリゴン一色に染まっていきます。そしてポリゴンによる3D表現が洗練されてゆくと、次第にプレイステーションというゲーム機のポテンシャルの低さが指摘されるようになり、よりハイパワーなゲーム機の到来が期待されました。その声に応えて登場したのが、プレイステーション2。まさに満を持しての登場でした。


プレイステーション2の発表時、いくつかのデモが披露されました。スクウェアなど名だたる大企業のデモに混じって、公開されたのがフロムソフトウェアのデモでした。プレイステーション時代にはSCE自身の方針もあって様々なゲームメーカーが参入しましたが、その中でも最大の「出世頭」がフロムソフトウェアだったのではないかと思っています。


完全に余談ですが1999年に新卒の就職志望者に配布されたSCEのパンフレットの中に、名こそ伏せられましたがフロムソフトウェアの業界参入時の秘話が公開されていたこともありました。SCEにとっても大きな存在だったことをこれ以上ないほど示している例だと思います。


しかし、個人的には、プレイステーション2が出てしばらくした後、フロムソフトウェアは迷走を始めたように思われました。『キングスフィールド4』はきらびやかな栄光の残滓をまとい、まだそれなりの良作ではありましたが、そのあたりが私がフロムソフトウェアにわくわくしなくなってきたギリギリのラインであったように記憶しています。


と同時に、ヴァーチャルワールドの誕生という文脈では、MMORPGというジャンルの台頭が大きな衝撃を私に与えました。最もハマったのは『FF11』ですが、リアルタイム3Dの世界で他人と一緒に冒険をしたり、物を作ってお金を稼いだりというヴァーチャルワールド的な楽しみが(完全なものとは言えませんが)そこにはありました。ヴァーチャルワールドに憧れた私はどっぷりとその世界にハマり、(たいていのMMORPGプレイヤーが一時期そうであるように)他のゲームにはまったく手を出さない時期すらありました。


そうして今日に至るわけですが、ヴァーチャルワールドという意味では(主にビジネスの分野で)注目を集めているのは、『Second Life』というオンラインサービスです。既存のMMORPGのように、レベルをあげたりクエストをこなしたり、といった目標が用意されず、わりとだらだらと日常を過ごすだけの「ゲーム」であるところのこのサービスは、しかしながらRMTの要素を巧みに取り入れることで、今までにない展開を見せることになりました。このサービスを通じて(リアルな)大金を得た個人のプレイヤーが出現したり、様々な企業が(主に広告目的で)提携したり、と話題を振りまいています。


今回発表された、フロムソフトウェアが開発に関わっている『meet-me』というサービスも、『Second Life』を相当に意識したオンラインサービスです。最大の違いは、『Second Life』ほど仕様をオープンにはしない、というところでしょうか。その反面、リアルの東京を再現した細やかな表現面では日本のゲーム開発企業らしいところが見られ、またインターフェイスなども分かりやすく工夫する、と発表されています。また、日本らしい展開として、ゲームコンソールとしては圧倒的になじみのあるコンシューマハードへの展開もにらんでいる、というところも、日本らしいとは言えるかも知れません。


リアルの東京をベースにしているということで、実際の場所にある企業などに打診し、土地を予約して貰うといった営業を行なう予定もある一方、全ての建物を再現するわけではなく、ユーザーが自由に利用できる土地も混在するそうです。何というかもう初っぱなからカオスになりそうな匂いがぷんぷんしますが(笑)、今話題のメタバースもの、という路線にしたからこそ、フロムソフトウェア単独の事業ではなくて、トランスコスモス産経新聞といった「異業種」を巻き込んでの大事業に発展したのでしょうし、ビジネス的には面白いところではあるのでしょう。


フロムソフトウェアとしても、プレイステーション2の時代から既に輝きを失っているとはいえ、年商はそこそこのラインを維持している立派な企業である以上、ゴーイングコンサーンがあります。以前には蜜月の関係にあったSCEプレイステーション3の立ち上げにほぼ失敗しており、『アーマードコア4』をひっさげて参入したものの、今後の展開には苦慮するところではあろうかと思われます。特に時代がライトでカジュアルなゲーム指向に移ってゆくと、リアルタイム3Dでばりばりやってきたフロムソフトウェアには逆風が吹いているようにも考えられます。


#フロム自身もカジュアルなゲームへの転向も同時に目指しているようですが、慣れていないせいかぱっとしない印象です。


たぶん、そういう中で話が舞い込んできた今回の事業展開。技術屋を自負しているフロムソフトウェアにとっては、渡りに船と飛び乗ったのではないでしょうか。実際、発表会の席でも神社長は「現在開発はかなり大変だが、全社一丸となって進めている」と挨拶したそうです。他の出席者とくらべて、ややぼさっとした髪型の神社長、微妙に表情にもお疲れモードが出ていたように感じられて、他人事ながら気が気ではありませんが(笑)、ともあれこの事業にはかなり力を入れていることがうかがえました。


個人的には、『キングスフィールド・オンライン』の発表であった方がよほどわくわくしたに違いないと思うのですが(笑)、まぁフロムにもいろいろあったのでたぶん「それ」はないんだろうなと思ったりもしています。結果的に、私の望んだ形ではないものの、それでもいよいよ「フロムソフトウェアが、満を持して世に問うヴァーチャルワールド」の発表であったのは事実ですし、今後の展開には注目していきたいと思っています。